若後家の三毛猫「みんなオス猫の玉が無くなったら、私も子猫を生まなくなるのかね。でも、フギャフギャするのは止められないよ」
赤黒斑の柳腰猫「お前さんが色気出す度に争いが起こるし、子猫が増えて問題になるんだよ。今だって、ちらちらと世太さんに色目使って・・」
若後家の三毛「これはメス猫の本能ってもんで、私のせいじゃないよ。あんただって無責任に生んでいるじゃないかえ」と応酬する。
オス猫に玉が有るから悪いのか、メス猫が発情するのが悪いのか、こればっかりは一概に決められない。
バッパ猫「お止めよ。生んだの何のって、誰が悪いんでもないさ…………、」
赤黒斑の柳腰「ごめんなさいね。茶虎のご隠居さんを不機嫌にするつもりはないけれど、オスもメスも子猫を生まない手術をして、街の中からノラ猫が消えちまったらどうなるんだろう」
飛び白茶斑の不良猫「そいつは面白いぞ、長生きすれば、珍しいノラ猫が発見された。何て、大切にされるかも知れない」
バッパ猫「お気楽言ってるんじゃないよ。そろそろ夜が明ちまう。どうしたら良いのか、猫には決められないのかね」
真っ黒の元ボス猫 「結局は人間様が何を考えてるのか分からないから手の打ちようがないんだ。正直言って、ネズミも少なくなって、ノラ猫が人間様の役に立つことも無いしね」
「役に立たないのに、なぜ可愛がってくれるのだろうって、考えたけれど分からなかった」と、俺が首をかしげると、すかさず、バッパ猫が教えてくれる。
「ヒューマニズムっていうやつさ。人間は規則とか見栄とか、自分自身を雁字搦めにして生きている。本当はもっと自由になりたい。
でも、しがらみがあって自由に成れないから、あちきらのように勝手気侭に生きてる猫に優しくしてくれる。中には、そんな猫の自由さに腹立てる偏屈もいるけどね」
真っ黒の元ボス猫は「そうか、ノラ猫は人間様の見失ったヒューマニズムを持ってるんだ」と、自分で大きくうなずいて感心している。
若後家の三毛「難しそうな話だけど、私たちノラ猫は人間社会の中で生きるより仕方ないし、良いも悪いもお天道様にお任せさ」
「人間はみんなヒューマニズムとか自由にあこがれてるんじゃないのかな、でも、猫嫌いの人もいる」と、俺がつぶやいたら、バッパは「大なり小なりその通りだけど、ヒューマニズムには決まりが無いから一人一人が自分勝手を言って争いの種になる」と教えてくれる。