プロローグ(part2)

 この家にはもう一匹、恥ずかしがりやさんのメス猫がいる。アビシニアンのアルバトロス、呼び名はアル。

アルは猫のくせに、一度だって家の外に出たことがないんだ。ぼくに惚れてるくせに「庭で遊ぼうよ」と誘っても、首を振って断わるから変な猫なんだ。アルは目にアイラインが入って、コケティッシュな魅力があって可愛いけれど、自分のことをヒロインのように振る舞うことがある。                

前にアルと話しをしたとき、
 「私のルーツは古代エジプトに始まるのよ。私の祖先はあの有名なクレオパトラに愛されて夜毎に抱かれて寝ていたとの・・・、由緒正しい血統は百年も続いているのよ。」と、のたまう。               

もっといろんなことも言っていた。
  「私の身のこなしは軽やかで、精悍な顔付きも、まるでミニチュアライオンのようだって、ほら、この毛色だって太陽の下で見ると黄金に光るでしょう。」と、体をくねらせる。

どこから見たって赤茶色のゴマ毛のくせに、生意気なことを言った罰として、ぼくは長いあいだ絶対に口を利いてやらなかった。

  いくら鈴を鳴らすようなコロコロした声で呼ばれても、ぼくは口笛吹きながら星を数えて無視した。美味しそうな牛肉を食べ残して気を引こうとしても、ドライフードをバリバリ食って我慢してやった。

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