ぼくは生まれも育ちも横浜………、と言うことになっているが、捨てられていたのだから本当の素性は分からない。


  今じゃ住処の決まった飼い猫なんだ。

  元町商店街の外れにあるだんだら坂を曲がって、いきなりきつくなった坂道を登り切ると外人墓地に出る。その左側にある、白い鉄柵で一段と高く引き込む私道の奥が、ご主人の家の入り口になっている。

  広い敷地にはレンガタイルの古い本館があって、離れたところに花壇と植え込みで仕切られて、本館とは不釣合いなこじんまりした平家が建っている。


 ぼくはどちらにでも出入り自由の気侭な猫だが、根城にしているのは、ネービーブルーの屋根に白い板壁の木造平屋のほうだ。




illust by maruya nagao

  屋根に登って首を伸ばすとビル街の向こうに港の公園が見える。

 欄干に菱形格子のあるウエスタン風テラスからは、遠くに海の水平線が見え、俺のお気に入りの古いロッキングチェアーが二脚並んで置いてある。


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