プロローグ(1)

  ぼくの名前はツートン、白黒二毛の玉無し猫。尻尾はチョン切れて短い。性格とか特技は何て聞かれても、これと言って自慢できるような取り柄もないが、よく食べて、よく寝て、よく遊ぶ、ノッタリしていて物事には頓着しない。

  見ようによっては暢気なだけかも知れないが、まあ、並の猫よりは二回りも大きい図体を見て、この貫禄に気が付いてくれれば幸いだ。

 顔の模様は、白いマスクに黒い頭巾をかぶっているように、鼻のてっぺんを真直ぐ横切って黒と白が上下にはっきり別れている。この顔が名前の由来なのだ。

  首筋から下腹、四肢の下側の部分は白いが、上から見ると、頭と背中が黒く、尻尾も黒い。

  自分ではマントを纏った怪傑猫ゾロの気分でいるのに、近所のチビッコたちは、生意気にも“ハエちゃん”とあだなで呼ぶのだ。


  「拾われてきた頃は、ガリガリのチビッコで、目ん玉ばかり大きく、一寸でもびっくりすると尻尾を膨らませて、イノシシのウリ坊みたいに毛を逆立てた。」

  小さいながらも精一杯強く見せるつもりで、足をつっぱってぴょこぴょこ横飛びをする様子は、まるで網戸に絡まったブンブンバエみたいだったらしい。

  いくら“ハエちゃん”と優しく呼ばれても元がハエでは嬉しい訳がない。

  それに、イエバエ、クロバエ、クロキンバエ、ショウジョウバエ……、蝿にもいろいろあるけれど、誰がつけたのかブンブンバエ何ていやしない。


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