日当たりの砂利には三十羽くらいのドバトがやってきて、子供たちが撒いたポップコーンやポテトチップスをついばんでいる。
鳩はちっこい目を真ん丸に開いて、ほっぺたを膨らましてキョトキョトするから、面白い。俺はそっと忍び寄った。
「ダメッ」 小さな女の子が叫んで、俺に目掛けて小石を投げたから、俺は鳩が豆鉄砲を食らったように慌てて逃げ出した。
化粧直しされた公衆トイレのそばに来たら、茶虎バッパの用事を思い出した。 
忘れていたわけではないけれど、喜びそうなみやげ話が無い。困ってうなだれたら、アリンコが行列して行進しているのを見つけた。
トイレのコンクリートから這い出して、ゴミ篭のところまで三メートルの間を忙しく往復している。
頭と頭を鉢合わせして、挨拶なのか譲り合いなのか、立ち止る。大きい餌を運ぶアリンコは、出てきたばかりのアリンコの応援を断わって、何だ坂こんな坂と引き摺るように運ぶ。
アリさんはいつもせっせと働いているように言われているけれど、一生懸命に働いているのは、せいぜい3匹に1匹ぐらいで、フラフラと遊びながら動いているのが多い。
飽きずに見ていたら、新しい遊びを発見した。俺みたいに、道草したり遠回りして行列から離れたアリンコに鼻息をかけて元に戻してやるのだ。また遊びのレパートリーが増えた。
俺は夕方になってクロちゃんを探したが、もういなかった。「お前のおかげで、いっぱい売れたよ」って俺の頭をなでて、喉のゴロゴロもしてくれた。柔らかくて優しい掌が消えて、ちょっぴり寂しかった。また会えるかな・・・
帰り道の石段で、子供が吹いたシャボン玉を追い掛けたら、低い木の幹にいる蝉を見付けた。黒と緑の頭で、透けた中に黒い斑点の羽のミンミン蝉が、しわがれ声で鳴いている。
茶虎バッパは、あれはお腹のアコーディオンを鳴らしているんだと教えてくれたけれど、こげ茶に横縞のあるお腹が小刻みに震えている。
手を延ばそうとしたら、しょんべんを掛けられた。今度捕まえたら羽を残して食ってやる。
やっと、外人墓地にある淡い紫のサルスベリの花が見えた頃は、雲の間から下弦の半月が顔を出していた。
急いで帰って、茶虎バッパに俺の冒険を話してやろう。