茶虎バッパが教えてくれた。
「お前は、あの健太のお兄ちゃんに拾われて来たんだよ」
今からちょうど五年前の春、お兄ちゃんの正一君が、友達とマウンテンバイクで遊びに行って見付けた。海辺りの山下公園の中央にある“赤い靴を履いた少女の像”の足下に、段ボール箱に入れらて捨てられていたそうだ。
箱を開けると、古いバスタオルと刻んだ新聞紙と一緒に、白毛が二匹、真っ黒が一匹、それに、ぼくが入っていた。
ふたを開けると、すずめの赤ちゃんみたいに顔を上向けてミィーミィーってありったけの声で一斉に泣いたそうだ。
「きっとお腹がすいているんだよ」
正一君と友達はポケットの小遣を出し合って牛乳を買ってきたが、飲ませ方が分からなかった。
通りがかりのお姉さんが手伝ってくれて、ストローを使って利用して少しずつ口に入れると、三匹は咳込んだりしながら一生懸命に飲んだけれど、目が潰れて一番元気のない白毛は、口に入っても鼻からプシュプシュ出してしまう。

「おまわりさんに届けたらどうかしら、・・でも、すぐに別の場所に移されて・・・何日もしないで殺されちゃうのよね」
お姉さんはとぎれとぎれに独り言のようにつぶやいて、「私にはどうにもできないのよ、ゴメンね」と、首を振るようにして足早に行ってしまった。
正一君たちはベンチに座って「どうしょうか」と、あれこれ考えた。でも、お姉さんの言葉が気になって「おまわりさんには絶対行かない」って決めたけれど良い知恵が浮かばなかった。
みんな口篭もっていたけれど、思い切ったように「みんなで一匹ずつ飼おうよ」と、正一君が言った。
他の子たちは、ますます困った顔になって「正ちゃんは叱られないの、ボクは前に子犬拾ってお母さんに叱られたよ」と、うなだれている。
「ボクのマンションは犬も猫も飼えないんだって」
「ボクのお母さんは猫が大嫌いなんだ」と、みんな尻込した。そこで、言い出しっぺの正一君が男気出して全部引き受けてしまった。
でも、正一君だって何とかなるなんて自信は無かった。正一君は子猫をつれて家に帰ったけれど、玄関先でお母さんに叱られて、泣きべそをかきながら箱を抱えて歩き回って、このお屋敷に捨ててしまった。
「なぜ、正一お兄ちゃんはボクをここに捨てたの・・・」って聞いたら、「正一君は考えたんだよ。この家の庭先にはノラ猫だったあちきがいることを知っていたからね、この家なら何とかしてくれると思ったのさ」
それから毎日、どうなったのか心配で、正一君は健太を連れて忍者みたいに隠れ見していたのさ。